首都圏郊外のベッドダウン、M市の住宅街で理髪店をやっています。
最近、駅前にカットオンリーの理髪店がオープンしました。
不景気で客そのものが減っている上に、価格競争に参戦しなければならないのかと思うとため息が出ます。
しかし、このまま手をこまねいていても仕方ありません。
商売を続けていくためには、従来のやり方を変える必要も感じています。
いい打開策はないでしょうか。(Bさん・自営業)
回答
長年住宅街でやっていて、常連客がそれなりにいる店も、新規顧客を増やすのが難しい時代になりました。
デフレで「安い早い」がもてはやされるご時世ですから、カット専門店のように髪を切るという単品サービスで1000円という料金は魅力です。
常連客も歳を取り、このままでは先細り……。
そもそも理容業は、はっきりセグメンテーションされていた業界でした。
女性は美容院、男性は理髪店に行く。
性別で行き先が分かれていて相場も比較的安定していました。
ところが、低価格のカット専門店が参入してきて価格破壊が起こったのです。
その先駆けとなったのが『QBハウス』です。
成功した1つ目の要因はカットオンリーにしたこと。
そもそも同社はガスや水回りを省略した業態にしたいという発想から始まったそうです。
給水・給湯設備を省けば、出店する場所や物件の選択肢が飛躍的に広がります。
これにより人の流れが多い『駅ナカ』への出店が可能になりました。
2つ目は、1000円という低料金設定です。
サービス内容を絞り込み、経費圧縮することで低価格が実現できました。
しかも駅ナカなど好条件な場所へ出店できたので、薄利多売の商売が成り立つ条件が揃っています。
スペースと人手があれば即開店できるので、チェーン化にも成功し、各地に展開することができました。
3つ目はユニセックス。
当初は男性客がほとんどでしたが、最近は女性客も増えています。
あまりヘアスタイルにこだわらない年配女性を中心に、ちょっとカットしてもらうだけで1000円ならリーズナブルだという認識が広まりました。
つまり、男女で区別されていた垣根も崩れたわけです。
そこで、生き残るためにはカット専門店との対抗軸を考え、違うコンセプトの理髪店としての差別化が必要になります。
ここで登場するのが『第2市場ディスカウンティング』という戦略です。
これはマーケティングでよく使われる手法で、1つの商品で第1市場と第2市場を作り、両方で顧客を獲得して利益を増やしていくという考え方です。
学割料金で販売するPCソフトのアカデミックパック、搭乗の数ヶ月前に予約すると割引料金になる『早割』、旅行業界で閑散期に適用される季節料金などがこれに当たります。
理髪店も第2市場を検討してみましょう。
『子ども専用理髪店』というのはどうでしょうか?
カット専門店が受け止めていないターゲットを割引料金で呼び込むのです。
第1市場 成人男性のヘアケア | 通常料金 |
第2市場 子どものヘアケア | 割引料金 |
子どもがいる方なら分かると思いますが、意外と子どもの髪を切る場所には悩むものです。
お母さん行きつけの美容院で切るとしても、子ども料金を設定していない店が多いので、ほぼ大人と同じ料金となり結構高くつきます。
また、カット専門店は料金はリーズナブルですが、大人中心の客層なので、露骨に嫌な顔をされることも多く、短時間で仕上げたいので細かい注文には応じてくれません。
「子ども専用」という看板を掲げて、お子様も歓迎ですとアピールすれば、行き先に困っている親御さんに感謝されるのではないでしょうか。
少子化ですから男の子限定にせず、小学校低学年までの女の子もターゲットに入れて『ユニセックスの子ども専用理髪店』をセールスポイントにしていきます。
サービス面での差別化も必要です。
理髪店ならではの技術を活かして、顔そりサービスはどうでしょうか?
産毛や襟足を剃ってあげるとさっぱりします。
価格は大人の半額程度が適当でしょう。
人が納得できる価格を『内的参照価格』を呼びます。
この辺が相場だなという価格より安いとお得感が出ることです。
もう1つ提案があります。
子ども連れのお母さん、おばあちゃんを取り込むサービスもアピールします。
例えば、シャンプー+セット+顔そりで2000円とか。
カットは行きつけの美容院があるでしょうから、その中間のお手入れを狙っていきます。
カット専門店ではやらないサービスを、リーズナブルに提供すれば喜ばれると思います。
子ども料金と女性向けのセット料金を統一した方が分かりやすいです。
それで回数券を発行すれば、常連客として取り込むこともできます。
月1回来店するとして、年に12回×2000円=2万4000円を2万円にサービスする。
面倒くさがって行きたがらない子どもも回数券があれば、習慣づけにもなりますし、割引があれば親御さんは喜びます。
まとまった金額の前払いは、やはり魅力的です。
固定客がつけば経営基盤が安定しますから、新規客を呼び込み、定着させる戦略として検討してはどうでしょうか。
さらに『おばあちゃん+お孫さんセット』という回数券を設ける手もあります。
両方が月1回利用すれば、2万4000円×2=4万8000円のところを4万円で売れば、孫と一緒に行動するきっかけにもなりますから、おばあちゃんの方で回数券を買ってくれる可能性もあります。
用途を明確にした方が、購買動機が形成されやすいですし、何といっても祖父母は孫に甘いですから、大義名分さえあればお金を出してくれます。
そういう心理をくすぐる要素としても、いけるのではないでしょうか。
[新規顧客の開拓]●子ども料金カット+シャンプー+顔そり=2000円
●女性用料金 シャンプー+セット+顔そり=2000円 |
[常連客の取り込み]●子ども回数券2000円×12回=2万4000円のところ、2万円で販売
●おばあちゃん+お孫さんセット回数券 2000件×12回×2=4万8000円のところ、4万円で販売 |
ちなみに、回数券を発行して利益を先取りするのは、『アドバンス利益モデル』に該当します。
1回ごと料金をいただくのではなく、前払い制で手元にまとまった金額の現金を確保する。
そこがポイントです。
本当に毎月来てくれるかどうか分からないお客様を待っているより、安定した売上が見込めます。
もちろん、お得意様へのサービスという位置づけですが、回数券を何セットか販売できれば、年間計画が立てやすくなり、余裕が持てます。
来店の有無にかかわらず、一定の金額を先取りできるからです。
個人事業であっても、利益モデルを参考に競合との対抗軸を明確に打ち出し、次のような差別化に成功すれば、打開策が見えてきます。
[カット専門店]ターゲットサービス
料金 |
→ユニセックス→カットオンリー
→1000円 |
[Bさんの理髪店]ターゲットサービス
料金 |
→子ども&年配女性→カット、シャンプー、セット、顔そり
→2000円 |
単なる値下げでは疲弊してしまいますし、明確なコンセプトがないまま思い付きでサービスを始めても、なかなか成功しません。
それには、従来のビジネスモデルにこだわりすぎない発想も必要でしょう。
「子ども専用」「孫と訪れる理髪店」という位置づけが浸透すれば、お客様の問題解決で利益を上げていく『顧客ソリューション利益モデル』を導入することもできます。
子供向けのお祝い需要は意外にあるものです。誕生日、クリスマス、七五三、卒業(卒園)入学(入園)など、プレゼントを渡す機会は1年間に何度もあります。
キャラクターグッズやゲームソフトをねだられても、祖父母の世代になるとお手上げな状態も多いでしょうし、わざわざ大型玩具店や家電量販店に出かけるのも面倒です。
これらのプレゼントの手配を代行したり、オーダーを取りまとめたりすることで、手数料収入の獲得も可能かもしれません。
ちょっとしたおもちゃや雑貨を店頭で販売してもいいでしょう。
つまり『理髪店=髪を切る場所』だけではなく、子供用の物販チャンネルとしてのビジネスも考えられます。
明確な顧客コンセプトを示すことで、顧客の問題を解決する場として機能することもできるわけです。
『理髪店』という業態に囚われるのではなく、冷静に競合の強みを分析して、対抗軸を設定し、相手が持っていないもので勝負する。
そういう発想をすれば、まだまだ手立てはあります。
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